最近よくパン屋へ行く。
週末の土曜日は洗濯や掃除、買い物を済ませたあとだいたい11時ごろに近所のパン屋へ出向く。
菓子パン系2個、総菜パン系(又はサンドイッチ)2個、合わせて4個ほど購入して家に帰り、それらを食べながら本を読んでお昼前後の時間を過ごしている。
そこのパン屋はその付近では割と名前の知られているお店で、週末はたいていお昼にかけてお客さんでいっぱいになる。
もちもちの食パンやアップルパイ、バターロールなどが人気だという。
種類豊富でボリュームのあるサンドイッチもおすすめだ。
他にも数多くのパンが決して広くはない店内にズラーっと並べられており、そこから各自食べたいパンを選んでトングでトレイに載せていく、まあよくあるスタイルのパン屋である。
そのお店とは別に最寄り駅の隣駅の構内にもパン屋が入っており、そこはチェーン店なのだが、あんクロワッサンが好きでよく買いに行く。
ここのパン屋もトングとトレイを使って自分の食べたいパンを取っていく。
その後、パンの載ったトレイにトングも載せて一緒にレジカウンターへと運ぶ。
頻繁にパン屋へ通っているため、今ではトングの扱いにも慣れたものだ。
絶妙な力加減でトングを扱い、パンを取ってはトレイへと載せる。その繰り返しである。
しかし家にはトングなんておしゃれな調理器具はない。
トングを使ってパスタの盛り付けをしたいだなんて思ったこともない。
無駄にトングの扱いに慣れてしまった。
話は変わり先日、どうしても行っておきたいと思い丸亀製麺に行ってきた。
今年の頭に親から丸亀製麺の株主優待券をもらったのだが、その使用期限が迫っていたのだった。
1枚100円で、6枚(600円)残っていた。
タダで貰ったものなのだから、使わなかったからといって損するわけではないが、それでも使わずにいたらもったいなかったなぁという気持ちは残る。
お店に着くとお持ち帰りであることを伝えた。
コロナの関係で極力店内で食べるのは避けたかったし、そもそも家でゆっくりと食べる方が落ち着く性分である。
そしてうどんは頼まず、天ぷらだけの持ち帰りにした。
とくべつうどんを食べたい気分ではなく、だったら天ぷらだけにしよう、家にはご飯もあるし、と思ったのだ。
トレイにお皿を載せて天ぷらを選ぶ。
どれにしようか迷うが、後ろから客が来ていたので早く選ばなければ、と少し焦る。
ここでもトングを使って天ぷらを取った。
パン屋の物と比べて短めではあるものの、慣れた手つきでトングを扱い天ぷらを載せていく。
まずはかしわを選んでお皿に載せる。次に、イカもおいしそうだったのでトングで掴んでお皿に載せる。野菜も欲しいなぁと思い、かぼちゃとさつまいもをお皿に載せつつ、頭の中で金額を計算する。
どうにかしてうまいこと600円以内に収めたかったのだ。
あと1個くらいはいけるかなと判断し、どれにしようか選ぶ。
最後の1個にちくわを選ぶと、トングで掴みお皿に載せた。
後ろから他の客が来ているなか手早く済ませると、台の上をトレイをスライドさせつつレジへと向かった。
するとレジの女性がなにやら声をかけてきた。
ちょっと早口だったため、僕はうまく聞き取れなかった。
「ん⁉」と返すと、その女性がもう一度、今度はゆっくりと話しかけてくれた。
「使い終わったトングは元の場所に戻してもらえますか?」
驚いて顔を下に向けると、トレイに載ったお皿の上にはトングが置かれていた。
最近ひんぱんにパン屋へ通っていた僕は、いつもの癖でトングをレジまで持ってきてしまっていたのだった。
これは恥ずかしい。赤っ恥である。
「ああ、すみません、、、」と謝ると、後ろに客がならんでいるなかトングを返しに行く。
置き場は天ぷらが置かれたパッドの横にあった。
パン屋のように引っ掛けるのではなく、横に寝かせて置くようになっている。
右手にトングを掴み、腕を伸ばして置こうとした。
そのとき僕は焦っていたのだろう。
あろうことか、誤って台の上に落としてしまった。
僕は慌てた。気まずい。
「やっちゃたよ」みたいな目で周りの人が見ているのを感じた。
仕方なく僕は、忙しそうにしている店員さんに声をかけてトングを取り替えてもらったのだった。
そのときの店員さんには一切愛想はなく、ただただ冷たい目をしていた。
今も忘れられない。
ほんとそれこそ、穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。
そそくさとレジへと戻り優待券で会計を済ませると、お持ち帰り用のパックへ天ぷらを入れ、足早にお店をあとにした。
ひどく恰好悪いミスを思い返しながら帰宅すると、冷凍してあったご飯をレンジで解凍し、そのあと天ぷらも温めると、すぐさま食べ始めた。
あんな事があったが、とうぜん天ぷらに罪はなくただただ美味しかった。
その後スマホでAmazonのサイトを開くと、「トング」と打って検索した。
「こんなにもあるの⁉」というくらい数多くあり、形も材質も様々で、持ち手や挟む部分に赤や黄色などの色がついている物もあった。
ふだん調理器具に興味を持つことなんてほとんどなく、ましてやトングなんて必要だと思ったことすらない人間が、しばらくの間ずっとトングを比較していた。
実際に購入した場合の使い道についても想像をふくらませた。
パスタやサラダ、魚料理にバーベキュー、、、いろいろ使えるなと。
そして、悩みに悩んで「これにしよう!」と思えたトングをカートに入れた。
カートに入れた。
カートに入れて、そのままだ。
結局、購入しなかった。
なぜなら使わないことに気づいたから。
自炊はするけどほとんど決まったものしか作らず、それらの料理にトングは必要なかった。
僕にはトングは使いこなせないなと感じた。
というわけで、恥ずかしい思いをしたのをきっかけになんだか勢いでトングをネットで物色したのだが、以前カートに入ったままだった。
購入するかどうかは、その気になったらまた改めて検討しようかなと思っている。
お読みいただきありがとうございました。