7年くらい前に居眠り運転で事故を起こした話


スポンサーリンク

f:id:tantanto04:20201025220815p:plain

その当時は物流関連の会社に就いており、物流センターにてコンビニ商品の出荷の仕事をしていた。まだセンターが立ちあがって間もない頃だったため、毎日3~4時間の残業は当たり前だった。正直キツかったが、仕方のないことだと諦めて体に鞭打って働いていた。
事故を起こしたのは1年で最も忙しい師走を迎えたばかりの繁忙期だった。
その時期は当然のように普段にも増して残業時間が長い。会社を出るのが12時を過ぎるのが通常と化していた。車で通っていた僕は、通勤や帰宅途中にウトウトすることが何度もあった。なかにはひどくヒヤッとしたこともあったのだが、それでもまさか自分が事故を起こすわけがないという何の根拠もない過信があったのだった。


事故を起こした当日、会社を出たのは深夜1時半ごろだった。
1時ごろに仕事を終えて帰り支度を済ませ、疲れた身体を引きずりながら「おつかれ」と何人かの同僚に声をかけ、駐車場に止めた車に乗り込み出発した。
家まではだいたい1時間弱で到着する予定だ。
さすがにその時間帯は道路も空いており、住宅街を抜けたあとの国道ではいつもよりスピードを出して運転していた。とはいっても普段がけっこうノロいため、他の車と比較するとそうたいして速いわけではないらしく後ろからバンバン抜かれた。
途中コンビニへ寄ってお菓子を買った。昼から何も食べておらず空腹だったからだ。そこで10分ほど時間ロスしたものの、2時半には家に着く予定だった。
後半に差し掛かると強めの眠気に襲われてきた。気をつけなきゃなという意識はあったと思う。しかし意識するだけで、とくに眠気に対して何の対処もしなかった。路肩に車を止めるなり、もう一度コンビニへ寄るなりして休憩すべきだったのだ。
そのまま車を走らせ、そしてあと7、8分くらいで家に到着というところで事故は起きた。
居眠り運転だったため、当然だが事故の瞬間は覚えていない。衝撃音とともに目を覚まし、気がつくと車は反対車線に停車していた。くるっと回ったらしく進行方向を向いていた。
信じられない状況に僕は動転していた。まさか本当に事故を起こしてしまうなんて。終わったな、と思った。
それでもなんとか気持ちを落ち着かせるよう努めた。とりあえず大怪我を負っている様子はなかった。もちろんきちんと検査を受けてみないとわからないが、今の時点では体は動くし大丈夫だろうと判断した。
車内にはキュイーンという異常な機械音が断続的に鳴り響いていた。まずは外へ出るべきだと思い、助手席を覗き込み鞄と携帯を探した。ぶつかった衝撃で落ちたらしく、座席の下から見つかった。手に取ると車外へ出た。
歩道へ座り込み、まずは119番に通報をして救急車を呼んだ。初めての経験だった。
そのあと家へ連絡をした。電話には母が出た。そのときすでに深夜2時半ごろだったにもかかわらずすぐにつながった。「ごめん、事故った」と伝えると母は「えっ」と動揺した様子を見せた。僕は安心させるため、今のところ大きな怪我はなさそうだと伝えた。それから今は救急車を呼んだので待っているということと、事故の場所を伝えると電話を切った。
途中、通りかかった男性が車を降りてきて「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。それだけで少し気持ちが楽になった。
それほど待つことなく救急車はやって来た。すぐさまストレッチャーに乗せられて運ばれた。その際、あまりにも寒くてガタガタと震えていた僕に気づいた救命士の方が「寒い?」と訊いてくれて、毛布を何枚もかけてくれた。優しさが身に染みた。
病院に搬送された僕は体を固定されたままいくつかの質問や処置をされた。今となってはもう詳しく覚えてないが、慌ただしかったのだけは記憶にある。不安な気持ちでいっぱいだった。
しばらくすると病院に駆け付けた母がやって来た。横になった僕を覗き込んだ母は「大丈夫?」と声をかける。その目は少し潤んでいた。もの凄く申し訳ない気持ちになった。その場に父はおらずどうしたのかと思っていると「お父さんは今、警察に連絡してその場でいろいろ対応してくれてる」と教えてくれた。そのとき初めて警察に連絡していないことに気づいたのだった。事故を起こして軽いパニックに陥っていた僕は、救急車を呼んで家に連絡することだけで一杯いっぱいだったのだろう。
検査を終えると個室へ移された。とりあえず1泊入院するとのことだった。おそらく大丈夫だろうが、検査結果によってはさらに2、3日延長されるかもしれないと説明を受けた。
少し経ってから父が到着した。体の状態と今後の状況を伝えると「ほんとラッキーだよ。不幸中の幸いだな」と言われた。事故を起こした直後は余裕がなかった。そのためいったいどこにぶつけたのか、車の損傷はどれくらいなのか、ほとんど何も把握していなかったのだが、どうやら車はけっこう悲惨なことになっていたらしい。何のつもりか知らないが、父は車の様子を写真に収めていたらしくスマホを見せてくれた。そこには助手席側のバンパーがぺしゃんこに潰れた車が写っていた。少しでもぶつかる場所がズレていたら今ごろ大怪我を負っていたかもしれず、下手したら最悪死んでいてもおかしくなかったのだと改めて思い知った。
それから少し話をすると両親は家へと帰っていった。詳しい時間は覚えてないが、もう明け方近かっただろう。少しでも眠る時間はあったのだろうか。
僕もようやく眠りにつき、数時間ではあるが体を休めた。目覚めた後はすぐに会社へ連絡を入れた。お休みをいただくために事情を伝えるとさすがにびっくりされた。一週間ほどお休みをいただきたい旨を伝えたあと、保険の関係で確認が必要だったため労災が下りるかどうかも尋ねた。おそらく大丈夫だろうとの返事を聞くと電話を切った。その後運ばれた朝食を摂り、部屋にやって来た看護師から今日の予定を聞かされた。昼過ぎくらいには検査結果が知らされるらしく、それによって入院が延長されるかどうか決まるとのことだった。自分の感覚ではもう平気な気がしていた。衝突した際に腰を打ち付けたらしく若干の痛みはあるものの、生活に支障はなく問題ないだろうと分析していた。
お昼を迎えて運ばれたきたご飯を食べたあと、まもなく看護師さんがやって来た。朝来た若い看護師さんとは違い、明らかに経験豊富で仕事のできる看護師さんといった人だった。しかもかなり美人だったのをよく覚えている。特別もったいぶるわけでもなく、とくに問題はなかったので明日には退院できますとあっさり告げられた。たぶん大丈夫だろうと思ってはいたものの、なんだかんだで不安もあり頭の中でごちゃごちゃネガティブな想像を膨らませてもいたので、無事退院が決まってホッとした。
そのあと親や仕事先に連絡を入れたり、保険会社と連絡をとったりとバタバタしながら午後の時間が過ぎていった。
そしてその日の夜、ヒヤッとした状況を迎えた。
7時過ぎくらいっだただろうか。仕事帰りに父が病院に寄って顔を出してくれた。昨夜はあんまり寝てなくて疲れているだろうに、わざわざ来てくれたありがたいなと思った。ふだんあまり2人きりで話す機会がないので珍しくいろいろ話をしていたら、ある人物がお見舞いに来てくれた。それは会社の上司だった。確かに電話で話したときに病院の場所は伝えていたけれど、まさか来るとは思っていなかった。百歩譲って場所が近ければわからなくもないが、その病院は会社から車で1時間弱かかるのだ。にもかかわらず来てくれて本当にうれしかった。感謝もした。しかし如何せんタイミングが悪い。なぜならその場には父がいたのだ。思わぬ形で上司と父が顔を合わせることになり、僕は内心もの凄く慌てた。なぜなら考えようによっては、今この状況には火種のタネがあるのだ。従業員を遅くまで働かせてしまい睡眠不足を招いたことが原因で居眠り運転を起こさせてしまった会社の人間と、その居眠り運転により事故を起こした従業員の父親という構図である(もちろん悪いのは事故を起こした僕であって、会社を非難するつもりは全くない)。しかも父親はけっこう短気なところがある。上司も昔は悪かったらしいという噂があり怒ると尋常じゃないくらいに怖い。どうなるのだろうとドキドキしながら見守っていたのだが、そこはやはり2人とも大人だった。「こういった事態を招いてしまって申し訳ございませんでした」と上司が謝罪すると、父も「いえいえ、こちらこそかえってご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」と謝る展開となり、心配は杞憂となった。それどころかその後なんだか気が合ったのか雑談をし始めて、ときおり笑い声さえ聞こえるほどだった。
あまり長居しても悪いからと少し経ってから上司が帰り、父も8時になるタイミングで病院を出てバスに乗るために駅へと向かった。
ひとり残された僕はいったい就寝まで何をしていたのか。その辺りの細かいところはもうさすがに覚えていないが、テレビを見た覚えはないしスマホゲームをしていた記憶もないので、おそらく本でも読んでいたのだろう。そういうことにしておく。


翌日は昼前に退院となった。母が迎えに来てくれた。手続きを済ませると、外へ出て駐車場で車に乗り込む。出発してしばらくすると事故の現場に差し掛かった。当然だが車は通常通り行き交っており、事故があったことを窺わせるものは何一つ残っていなかった。父の話では僕の運転する車は橋の欄干に衝突したらしいのだが、そこにもそれらしい形跡は見当たらなかった。というのも、その橋はけっこう古く元々あちこちにキズがついていたため、どれが今回の事故でついたキズなのか判別できなかったのだ(そのおかげもあって、本来なら支払うはずだった橋の補修代が免除されたのはラッキーだった)。なんだか少しドキドキしながら事故現場を通り過ぎると、途中でコンビニへ寄って昼ご飯を買ったのち家へと帰り着いた。
たった2晩いなかっただけなのに妙に懐かしく感じた。そして、あぁよかった、とホッとしたのだった。帰って来れてよかったなと。


今まで生きてきて、こんなにも死を間近に感じたことはなかった。たいした怪我もなかったので実感しにくいが、下手したら死んでいてもおかしくなかったのだ。

事故を起こしたことはショックだったし、もう二度とごめんだが、それでもこうして交通事故の怖さを知って、死というものと少しでも向き合えたことは良い経験だったのかもしれないと思っている。